「がん体験者の悩みQ&A」では、2003年と2013年に実施した全国調査結果を整理して構築したがん体験者の悩みデータベースを公開しています。このデータベースに基づき、がん体験者の方々の悩みや負担をやわらげるための助言や日常生活上の工夫などの情報ツールの作成等を行っています。
なお、個別の回答やご相談は、仕組み上できかねますので、お困りごとやご相談がある方は、お近くの「がん相談支援センター」をご利用ください。

悩み

副作用による手のこわばりやしびれが続き、抗がん剤治療に不安を覚えている。
1 件の体験者の声があります。

助言

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【治療を続けていくことと心や体のつらさ】

手術や放射線治療は、ある意味で『治療終了』というゴールが見える治療といえるかもしれません。一方、抗がん薬による治療は、手術や放射線治療と組み合わせて行うこともありますが、がんの状況から全身の治療が必要な場合で、がんの状況や薬の効果を見ながら、治療をずっと続ける場合があります。

がんという病気のやっかいなところの一つは、将来の不透明さだと思います。
常に『前向きに生きなければ』、『病気に負けてはいけない』と自分に強いることは、とてもつらいことです。ですから、時々『ねばならない』という荷物をはずしてみましょう。病気に負けそうな気分になったり落ち込んでしまったりするのも、誰でもあることです。
治療の先が見えないこと、一度は自分が決めたことであっても、さまざまなつらさ(治療によって起こるさまざまな症状、日常生活や社会生活への影響など)から、治療をやめたいと思ったり、もう疲れてしまったと思ったりすることもあります。

最初は“がんばって治療を受けていこう”と思っていても、副作用などのからだのつらさを伴う治療を長い間受けていると、からだだけではなくこころも疲れてきて、うまくからだとこころのバランスがとれなくなっているといえるかもしれません。

さらに、外来で行う治療では、病院での診察の時間は短い、医師だけではなく、看護師など他の医療者との会話の時間も少ないことが多く、つらいと感じる思いは、どこにも行き場がないのかもしれません。また、あなたをサポートし、気遣ってくれるご家族やお友達にも、話しにくいこともあると思います。

でも、こころのつらさをやわらげるためにも、時々たまってきたつらさを外に出してあげる必要があります。こころのガス抜きは、つらいと感じていることを、言葉にして出してみることです。

こころのガス抜きの相手は、人によって異なると思います。ご家族や何でも話せる友人、同病者、あるいは看護師、病院の相談室の相談員などに、ご自分の気持ちを話してみましょう。人に聴いてもらうことで気持ちが少し楽になると思います。
また、がんに関するさまざまな悩みや困りごとなどの相談に対応するがん相談支援センターが、全国のがん診療連携拠点病院に設置されています。こういった仕組みを利用してもよいでしょう。がん相談支援センターに関しては、国立がん研究センターがん情報サービスのがんの相談ページをご参照ください。 (https://ganjoho.jp/public/institution/consultation/index.html)


 
【手指のこわばりやしびれの状況を診察前日に準備して具体的に医療者に伝える】

しびれに関しては、医療者にその状況を伝えることが大切です。短いと感じるかもしれない診察時間や、医師や看護師、薬剤師等にうまく伝えられないと思うかもしれませんが、治療で末梢神経障害(しびれ)が出たときは、担当医や看護師に状況やその変化をきちんと伝えましょう。

しびれの程度だけではなく、日常生活の中での変化や困りごとも具体的に伝えます。たとえば、服のボタンがとめにくい、字がうまく書けない、ものがうまくつかめない、靴がうまくはけない、つまずきやすい、はし(フォークやスプーンなど)をうまく使えない、階段の上り下りがつらいなど、しびれに伴う日常生活の困りごとは具体的に伝えること、そして、しびれや困りごとの程度や種類に変化があれば、その変化の状況も伝えることが大切です。

できれば、あらかじめ症状とその強さを記載する表を作成しておき、受診の前日に日付を記入してチェックしておき、その表を医師や看護師等に提示すれば、現在の状況だけではなく、これまでのしびれの症状の変化も相手に短時間で伝わりやすいと思います。また病院によっては、このようなチェック用紙をあらかじめお渡ししている施設もあります。

診察室での時間は限られている上、医師を前にすると緊張してしまう方もいます。伝えようと思ったことがすべて伝えられるとは限りません。少し手間は増えますが、しびれの状況を医師や看護師にきちんと理解してもらうためにも、外来前日に準備しておきましょう。


 
【しびれをやわらげるための試み】

指先や足先がしびれているときに、これらを動かす(運動する)ことで、しびれがやわらぐことがあります。1日に数回、症状のある手足の筋肉を曲げ伸ばしする運動を数回ずつ行ったり、くるみ大の小さな球やゴムボールを握ったりゆるめたり、手のひらで転がしたりと、手指の運動を行ってみましょう。
握力が弱った高齢者やリハビリ用に市販されているグッズもあります。

温めると血行がよくなり、しびれがやわらぐことがあります。入浴は、シャワーだけで済まさず湯船につかると、血行がよくなります。お湯につかっているとき、手指の運動も兼ね、手足の指先を動かしてみてもよいでしょう。
また、「温泉に行くと、温まるだけでなく、気持ちもほぐれて楽になる」と言われた患者さんもいらっしゃいました。
温めるという点では、特に寒い時期は、厚手の手袋や靴下で保温するのもよいでしょう。

しびれに対して対症的にお薬を使う場合もあります。ただ、日常臨床で使われていても、まだ科学的に有効かどうか検証されている途中のもの、十分に検証されていないものもあります。また、効果が期待できても、そのお薬の副作用(眠気やだるさ、ムカムカするなど)との兼ね合いで、慎重に検討する必要があります。
お薬を対症的に使うかどうかに関して医師は、患者さんのしびれの度合いや日常生活の支障、しびれのお薬の副作用との兼ね合いをよく検討します。しびれがつらいときは、主治医とよくご相談ください。
実際に、さまざまな病院で使われているお薬に関しては、静岡がんセンターで作成した小冊子『抗がん剤治療と末梢神経障害』(https://www.scchr.jp/book/manabi2/manabi-body10.html)の『対症療法について』をご参照ください。


 
【しびれに関する生活のなかでの注意点】

抗がん薬によるしびれは、日々の暮らしの中で、しびれによる不快と生活への支障の両方を感じることが多く、つらさや不安も大きいと思います。

つらさや不安はなかなかぬぐえないかもしれませんが、しびれをやわらげる可能性のあることを試してみること、また、しびれが原因で、やけどやけがなどしないように、日常生活のなかで注意することが大切です。

しびれの程度などは個人差があり、またしびれをやわらげる可能性のある試みも、すべての方に効果があるわけではありません。患者さんから経験談をお聞きすると、ご自分なりにいろいろ試して自分にあった方法を日常生活に取り入れたり、自分なりの工夫をしたり、されているようです。

1 やけどに注意する
◎ 手(指など)がしびれているときは、熱さを感じにくくなるので、湯飲みを持つときや熱い物にさわるときに、やけどに注意してください(湯飲みではなく、取っ手のついたカップを使うなど)。
◎ カイロなどでの低温やけどに注意してください(カイロを長時間身につけておかない、ストーブのそばに長時間いないなど)。
◎ 家事の時は、綿手袋などをし、直接熱いものに触らないようにしましょう。

2 けがに注意する
◎ 刃物を使うとき、指先がしびれて鈍くなっていることがあるので、けがをしないように注意しましょう(調理をしなければいけないときなどは、包丁は危ないので、料理用はさみ、ピューラー、フードプロセッサーなどを使用する、あるいは、野菜などあらかじめカットされた状態で購入できる材料を活用するなど)。
◎ 深爪をしないように注意しましょう(入浴後など爪がやわらかい状態のときに爪切りをする、爪やすりを使うなど)。
◎ 手や足のしびれがあるときは、買い物などで重いものを持てなかったり、買い物袋を落としてしまったりすることがあります。ショッピングカートの利用、リュックサックタイプのエコバッグの利用など、手で持つより負担は少ないと思います。ネットスーパーやネット通販の利用、スーパーの配達(配達してくれるところであれば)などを利用する方法もあります。

3 転ばないように注意する
◎ 足(足先や足の裏など)がしびれているときは、滑りにくい靴をはき、段差は特に気をつけましょう。
◎ 脱げやすい履物(サンダルやゆるい靴)は避けましょう。
◎ ハイヒールは足先に体重がかかって転びやすいので履かないようにしましょう。
◎ 階段では手すりを使い、ゆっくり上り下りしましょう。あるいは、エスカレーターやエレベーターを利用しましょう。
◎ 足がしびれているときは、立ち上がるときに力が入りにくいことがあるので、ゆっくり立ち上がるように気をつけましょう。
◎ 部屋の床につまずきやすいものを放置しないようにしましょう。
◎ 滑りやすいカーペットやマットなどを敷かないようにしましょう。
◎ 転倒防止のためのバランス運動
特に高齢になると、筋力の低下、足首の関節が硬くなる、視力低下(老眼、白内障など)などが起こりやすくなり、そこに足のしびれが加わることで、転びやすくなります。家でできるバランス運動などを取り入れてみましょう。
バランス運動の例)
立った状態で、片足を軽くあげて(10cm程度でよい)、30秒間くらいそのままでいます。その後、反対側も同じようにします。なお、体がふらついても支えられるように、足を上げるのと同じ側の片手(たとえば、右足をあげるときは、右手)は壁などを触りからだがふらついても支えられるようにするか、動かないテーブルや椅子などを持ち、ふらついても大丈夫なように安全に十分気をつけましょう。

4. 日常生活での工夫
日常生活の工夫の情報やグッズ等を探すときなど、『抗がん薬治療の副作用で起こるしびれ』と限定してしまうと、なかなか見つけにくいと思います。しびれという症状に着目して、『しびれがある』、『指や手の力が弱っている』ときに便利なものを探してみましょう。

特に、高齢者用やリハビリ用のグッズなど、100円ショップにも、使うと便利なグッズがあると思います。
◎ペットボトルやびんのフタなどがあけにくいときは、ペットボトルオープナーなどの補助具、指サックや太めの輪ゴムなどを使ってみる。指サックは、外出時に持ち歩くとどこでもすぐに取り出せ使える
◎ボタンのない服や、ボタンがはめやすい服を着る
◎靴下はしめつけないものを履く(履き口のゆるいものなど)
◎指に力が入りにくく、文字がうまく書けないときは、可能であれば、パソコンやスマホ、タブレット等を利用する
◎また、<筆記補助具(高齢者や手や指が不自由な方などための筆記具の補助具、すべりにくいシリコン製のグリップを筆記具の指があたるところにかぶせたものなど、いろいろ工夫されている>などを試してみる など


 
【肝機能障害について】

抗がん薬はその種類によって副作用が異なりますが、肝臓、腎臓などの臓器に影響を及ぼす可能性がある抗がん薬もあり、抗がん薬治療で、肝機能が低下する場合があります。
その場合、抗がん薬治療を一時休んで回復を待ったり、お薬の量を変更したり、場合によっては、別の抗がん薬の治療に変更する場合もあります。

《助言作成の参考にした資料》
(1)日本がんサポーティブケア学会編.がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン 2023年版.金原出版
(2)川口展子.化学療法誘発性末梢神経障害 本邦の現状とASCO/ESMOガイドライン 2020. CANCER BOARD of the BREAST 2022; 7: 50-53
(3)日本乳癌学会編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2023年版. 2023
https://jbcs.xsrv.jp/guideline/p2023/
(4)市川度 編著.がん薬物療法の副作用ケアとことん攻略本.メディカ出版.2016
(5)飯田宏樹, 新田都子.痛み・神経障害ケア:がまんさせないケアへ.がん看護 2017; 22: 389-392
(6)草場仁志.末梢神経障害.がん看護 2017; 22: 222-224

(最終更新日:2023年8月5日)


 

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